桜色5

 

 

 

 

カカシは里に帰還すると、図書館へ向かった。

図書館の隅の方に追いやられている古い文献に目を通す。

 

 

 

花蝶の国では、忌み嫌われた血を処理するために昔からある風習がある。

神に命を捧げるという名目で、自らの命を絶たせるのだ。

長い時を経て、差別はなくなりつつもその風習だけは消えない。

忌み子は、必ず2つの特徴を持つ。

一つ目は他者ないしは自身を治癒する力を心得ている。

 

そして二つ目に、家系に関係なく毛髪は―――桜色。

 

しかし、彼らの遺体は未だに発見されたことがない。

これは神隠しとも言われるが、一説によれば

 

 

 

パタン

 

 

 

カカシは本を閉じ、無言のまま席を立った。

 

 

夕日が眩しい。

カカシは目を細めた。

 

 

サクラは血継限界の持ち主だったのだ。

いつの世も、周りと違う者は差別され、迫害される。

「サクラ」

名を呼んでも、当たり前だが返事はない。

カカシの目には風に揺れる桜色の髪が今もまだ鮮やかに焼き付いている。

 

 

 

君は、幸せだったか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ、はぁ、しっかりしろ!もうすぐカカシが到着する」

男は負傷した仲間の傷口を抑えながら彼を励ました。

「お待たせ」

声と共にカカシがその場に姿を現した。

「カカシっ!出血がヒドくて止まらないんだ」

「ああ。ちょっと退いてろ」

カカシは負傷部分を探って、その部分の服を引き裂いた。

 

直に触れた方が効果が高いことをここ1年で学んだ。

 

蝶がヒラリ、ヒラリと舞って傷を埋め尽くす。

「お前すごいな。今度はどんな技をコピーしたんだ?」

傍らの男がカカシに尋ねる。

「企業秘密」

いつものふざけた口調で誤魔化せば、男はふぅんと何となく意図を汲み取る。

戦闘と治療の両方が出来る忍はほとんどいない。

従って、カカシは戦場では引っ張りだこだ。

その分、死亡率も上がることを示すが、カカシにとってそんな事はどうでも良かった。

今日も今治療している男を数えれば、治療人数は二桁に上る。

 

「うっ…」

ピクリと、男の瞼が動いた。

「おい!しっかりしろ!」

傍らの男が叫ぶ。

「応急処置は済んだ。命の危険はもうないだろう。早くこいつを避難させろ」

「あ、ああ。カカシ、お前は?」

「俺は、ここを掃除したら行く」

カカシは立ち上がると臨戦態勢に入った。

男がハッと周りを見渡すと知らないうちに敵に囲まれている。

「足止めは出来るが援護は出来んぞ。急げ!」

「…ああっ!」

男は倒れた仲間を肩に担ぐとその場を離れた。

2人を追うように敵が3人程追い掛けようとするが、火遁の術で道を遮る。

「お前らは俺が遊んでやるよ」

言い終わらないうちにカカシの姿が消えて敵の何人かが首から血を吹き出して倒れた。

返り血を浴びたカカシがクナイを片手に殺気を放つ。

敵が気圧されたのを見逃さず、その隙をついて雷切で一気に畳み掛ける。

 

 

気が付けば、その場に立っているのはカカシだけだった。

カカシは空を見上げる。

空にポッカリと浮かんでいるのは満月。

全ての物を優しく照らして包み込むような光を放つ。

 

 

あの日も満月だったっけ

 

 

 

なぁサクラ

 

 

 

当然返事はない。

しかし、今でも満月を見るとカカシはあの桜色の髪を持つ少女を思い出す。

そして、返事はないのについ呼び掛けてしまう。

 

 

これは君の望んだことではないよね

 

 

 

彼女は弱っている人々を助けたいと願い、カカシに力を託した。

でも、自分は弱い人を助けるどころか、戦争の荷担をしているようなものだ。

憎しみは際限なく渦巻いて戦場はいつだって地獄絵図。

しかし、カカシは力を使う度に風に流れる桜色の髪とサクラの笑顔を思い出す。

それは思い出すという行為ではなく、フラッシュバックに近い。

その映像を見たいが為にカカシは力を使い続ける。

 

 

 

サクラ

 

 

 

 

こうやって呼び続ければいつかサクラが自分を迎えに来てくれるかもしれない。

 

 

 

 

君に再び出逢うために、俺は生きてゆくよ

 

 

 

 

 

 

 

月が雲に隠れると同時にカカシの姿も消えた。

 

 

 

 

 

 

(完)

 

 

 

 

 

 

ここまで読んでいただいてありがとうございました。

感想なんぞを教えていただくと喜び死します。

 

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