人生は辛いだろ?
だから、支えになるものが必要なんだ。
 
 
 
 
 
 
 
This Is It
 
 
 
 
 
 
 
俺の支えって何だろ。
 
 
生まれてすぐに九尾を腹に封印された。
里の英雄になるどころか、迫害の対象となった。
そんな俺に、支えなんてあるんだろうか。
 
現在、俺は暗部に所属している。仕事内容は言わずもがな。
俺の手が血に染まらない日はない。
 
子供の頃は馬鹿の1つ覚えみたいに「火影になる」って言ってたけど、ある程度
年齢いった時にようやく俺も自分の立場っつーの?そういうのが分かるようになったよ。
 
俺の人生はきっとこの繰り返しなんだ。
血を血で洗う世界。
 
俺にはお似合いだ。
 
 
 
 
 
今日の任務は比較的早く終わった。
抜け忍の始末。
何で殺されることが分かってて里を抜けようと思うんだろうね。
 
俺には分からないや。
ただ、娘だけは助けてやってくれって請われた。
勿論そんな願いを聞き入れられるわけがない。
問答無用で全員殺した。
 
殺した死体に火をつけた。
ツンとした匂いが鼻を刺激する。
最初は気持ち悪くて仕方がなかったこの匂いにも随分慣れた。
結局忍の最期なんて一緒なんだよ。
 
 
灰となって欠片も残らない。
 
 
 
 
 
 
 
 
今日は何でかな。
血が騒いで家に帰る気が起きない。
こんな時、同僚は女を抱けと言う。
発散も出来るし、何も考えずに済むからって。
俺はそういう事には興味がないから、大体は酒と煙草で済ませる。
 
昔の俺が今の俺を見たらどう思うかな。
「そんな体の悪いもの止めろってば!」とか言うかな。
 
俺はきっとこう言う。
「お前もいずれ分かるよ」って。
 
 
 
 
 
 
馴染みの店へと行く。
店は静かで、オヤジも細かいことは聞いてこない。
ただ黙って熱燗を俺の前に置く。
そういえば、一楽のオヤジとよく似てるや。
はは、俺って頑固オヤジに弱いかな。
 
猪口に酒を注ぐ。
湯気と共に酒の匂いが鼻孔をくすぐる。
 
帰って来たんだ、あそこから。
 
俺はホッとして一気に酒を飲む。
熱いものが喉を通り胃へに辿り着く。
体の中心がかぁっと熱くなった。
 
俺はそれに気をよくして2杯目を猪口に注ぐ。
それを再びグイッと飲み干す。
 
適当につまめる物をオヤジに頼むと今が旬だからと言ってブリ大根を出してくれた。
一口食べる。ブリのダシが大根に染みていて美味しい。
酒ともよく合う。
 
「美味いよ」
 
俺が背を向けているオヤジに言うとフンと鼻で返事をされた。
素直じゃないな。
俺は苦笑してまた一口大根を食べた。
 
 
 
ガラッと扉を開ける音がして俺は反射的にそちらを見た。
そして相手と目が合い驚く。
 
「サスケ…?」
「ナルト、か?」
 
お互いに信じられないといったような感じで見つめ合うが、サスケがふっと表情を緩めた。
 
「久しぶりだな。元気か?」
 
ここ空いてるか?と問われ頷くと隣の席に座った。
 
「元気だってば。ほんと久々。何年振りかな?」
「もう5年くらい会ってないんじゃないか?最後に会ったのって上忍試験の時だろ?
オヤジ、俺にもこいつと同じのくれ」
 
はいよ、とオヤジがぶっきらぼうに言った。
 
「そっかー。もうそんなに経つのか」
 
あの頃は何が楽しかったのか、毎日笑ってばかりいた。
辛いことより楽しいことの方が多かった気がする。
 
俺、最近思いっきり笑ったことあったっけ。
 
 
「お前以外には結構会ってんだぞ」
 
過去を顧みていたらサスケに声を掛けられて自分が深く物思いにふけっていたことに気付く。
 
「へ!?あ、そうなのか?」
 
サスケは俺の反応を訝しむように眉間に皺を寄せたが、何も聞いてこなかった。
 
「大体みんな職場が近いからな。そうだ、サクラ結婚するぞ」
「えぇ!?サクラちゃんが!?相手は!」
「カカシ」
「マジか!?」
 
「あいつら、サクラが下忍の頃から任務以外でも会ってたらしく、サクラが中忍になったのをきっかけに付き合い始めたんだと」
「へぇ〜〜。全然知らなかったってば」
「あのロリコン野郎が」
 
「ヒドい言いぐさだな。仮にも火影に」
「ふん、あいつしょっちゅう抜け出すから書類がたまるんだよ。こっちの身にもなれってんだ」
「はは、火影補佐は大変だな」
 
今こいつは火影であるカカシ先生の下で補佐として働いている。
いずれはこいつが火影の跡を継ぐだろう。
血継限界の写輪眼もある。
この顔立ちだからファンも多いし、勿論みんなこいつがすごいのは顔だけじゃないことも知っている。
 
出世街道まっしぐらだ。
 
 
その後も酒を飲みながら他愛のない話をした。
キバの忍犬の赤丸が父親になったとか、シカマルが遠距離恋愛してるとか、ヒナタが日向の頭首になったとか。
サスケはサスケで、毎日火影であるカカシ先生の下で忙しい日々を送っているようだ。
 
 
だが、サスケは意識しているのかしていないのか、俺のことは何も聞いてこない。
多分、気を遣ってくれているのだろう。
その優しさが嬉しくて、辛い。
 
 
 
「あいつ、相談役を殴りやがって。誰がフォローすると思ってんだか…どした?」
「へ?何が?」
「いや、俺の顔ずっと見て。何かついてるか?」
 
サスケは袖で口周りを拭いた。俺は慌てて否定した。
 
「いや、気にすんな。話を続けろってば」
 
サスケの空になった猪口に酒を注ぐ。
でもこいつは下戸だから、あまり飲まない。
 
「…」
「どした?」
 
今度は俺が尋ねた。
 
「お前は、何してんだ?」
 
 
何となく、サスケがこう言うのを予想してたから俺はあまり動揺しなかった。
やっぱり気を遣ってたんだな。
 
「どうって、普通だよ。サスケたちと何も変わらない。普通の任務だってば」
 
酒を飲みながらニッと笑ってみせた。
嘘の笑顔は昔から得意だったけど、ここ最近は特に磨きがかかったようだ。
 
「…そうか」
 
そう言ってこいつは沢庵を口の中に放り込んだ。
見た目はめちゃくちゃ格好いいのに、中身はほんとおっさんだな。
 
 
 
俺はふと時計を見た。
知らない間にとっくに12時を過ぎている。
マズい、明日から隣国へ任務に行くのにまだ何も準備をしていない。
 
「わりっ、俺そろそろ帰るわ」
「俺も行く。オヤジ、勘定」
「ああ、いいよ。オヤジ、俺にツケといて」
 
「あいよ」
「おいっ」
「いーの、いーの。今日色々話聞かせてもらったからせめて奢らせろや」
 
サスケはまだ不満げな感じだったが俺が肩を押して促すと渋々外へと出た。
外は寒い。
雪が降るとまではいかなくても息は白く、火照った体を優しく冷たい空気が包む。
 
 
ふと我に返る瞬間がある。
 
俺はどちらの世界で生きているんだろうって。
 
実は殺し合いの世界が本当に俺がいるべき世界で、こちらはたまに息抜きで来る
程度の繋がりしかないんじゃないだろうか。
 
結局、俺の死に様だって今日の抜け忍と変わらない。
最期は欠片も残されない。
 
何も、残せないままに。
 
 
 
俺はサスケと向き合った。
いつ死ぬか分からない。
そういう思いが俺を駆り立てる。
 
「サスケ、今日はありがとってば。みんなによろしく」
 
俺は元気だったって、みんなに伝えて。
 
昔と変わらず、バカだって。
 
 
 
背を向けた俺にサスケが声を掛ける。
 
「何?」
「今度いつ会える?」
「は?」
 
「だから!その、また飲もうって言ってんだよっ」
 
目を逸らして、顔はほんのり赤い。
多分、寒さのせいじゃないよな。
その顔は昔と変わらない。
波の国の時に、木登りのコツを聞いてきた顔と一緒だ。
 
 
何、こいつ。
昔はあんなにスレたガキだったのに。
ちょっと、可愛いな。
 
 
 
「俺明日から長期任務に就くんだ。だから―――」
 
 
 
「戻ったら、連絡する」
 
 
久々に、心から笑った。
 
 
 
心の支え、なんて重いものじゃないけど。
俺はここに戻って来ていいのかもしれない。
 
 
土産でも買って来てやろうかな。
そう考えながら、俺は酔いもあって鼻歌を歌いながら帰路についた。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
冒頭の2行は映画「this is it」でダンサーが言っていた言葉です。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
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