唄を思い出せない
 
 
でも 頭の芯には残っている
 
 
 
 
 
 
 
 
 
子守唄4
 
 
 
 
 
 
 
 
サスケは目を開けた。
いつも見る我が家の天井だ。
 
何だろうか。思い出せないけど、何か悲しい夢を見ていた気がする。
顔に触れると自分の身に起こった異変に気付いた。
 
「チィ、何だよこれ」
しかし、一向に収まる気配はない。
チラリと時計を見ると集合時間ギリギリだった。
「くそっ」
サスケは勢いよく立ち上がると洗面所に向かい、猛スピードで顔を洗い歯を磨くと手ぬぐいを引っ付かんで集合場所へと走った。
 
 
 
 
 
 
集合場所に息を弾ませながら着くと相変わらずカカシはおらず、サクラだけが立っていた。
自分が急いで走ってきたというのを何となく知られたくなくて、サスケは集合場所より少し離れた所から呼吸を整えながらゆっくり歩いた。
サクラがサスケの気配に気付いて振り向く。
自分の異変について色々聞かれるのは面倒だな…とどうやって話題を避けようか思案していると。
 
サクラの顔を見てサスケは目を見開いた。
「サスケ君、おはよ…」
「お前、どうした?」
思わず自分が聞いてしまった。
 
「サスケ君こそ、ひどい顔よ?」
サクラは脇に抱えたティッシュ箱からティッシュを1枚取り出すとチーンと鼻をかんだ。
「サスケ君もどうぞ」
「・・・ああ」
サスケは素直にサクラからティッシュを受け取るとゴシ、と目を拭いた。
しかし、拭けども拭けども止まらない。
サクラも同様だ。
 
 
 
止まらないのだ。――――涙が。
 
 
 
 
何か悲しいことがあったわけでもないのに、目からポロポロと止めどなく涙が頬を伝う。
「ね、私たちどうしちゃったのかしら」
「俺が聞きたい」
「サスケ君はいつからそうなの?」
「目が覚めたら、既に泣いていた」
「私と一緒ね。強力な花粉でもまっているのかしら」
 
サスケはここに来る途中の道中を思い出した。
自分たちと同じように涙を流し、鼻をズーズー言わせている通行人なんて1人も見かけなかった。
 
(一体何だってんだ)
チィ、と舌打ちをしても、涙は止まらない。
 
「カカシ先生はどうなのかしら」
 
あのカカシが涙を流している姿なんて想像できないが、もし彼も同様な状態だったら何かの術にかけられた可能性がある。
サスケとサクラはまだ来ない上司を待つ間、ずっと鼻をグシュグシュ言わせていた。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
「やーおはよう諸君。今日はちょっと妖精さんに誘われて道を・・・」
 
「・・・嘘でしょ」
 
スン、とサクラは赤くなった鼻をすすりながら小さくツッコんだ。
「・・・どうしちゃったの?お前ら」
少女はティッシュ箱を抱え、少年は小さなゴミ箱(待っている間に調達)を足元に置いている。
 
この状態は、何だ?
カカシは頭をポリポリ掻いた。
「俺らが聞きたい」
「カカシ先生は体に何か異変はない?」
「んー、ないこともない」
カカシは言葉を濁しながら言うと、左目を隠す額宛を上げた。
 
戦闘でしか使われないその左目は今は閉じられているが、その閉じた瞳から流れるのは、涙。
 
「朝からずーっとこんな感じでね。参っちゃうよ」
はぁと溜め息を吐きながらカカシは言う。
右目は一滴も流れないのに、何故左目だけ。
きっと、右目は自分ので左目は親友の、オビトの目だからだろう。
彼はひどく泣き虫だった。
 
(何か悲しいことでもあったのかな)
 
答えてはくれない左目に聞いてみた。
 
 
「ま、別に体調が悪いわけでもないし、これくらいなら任務に支障はないでしょう。今日は迷い猫探しでーす」
カカシは額宛を元の場所に戻しながら言った。
「まさかティッシュ箱を小脇に抱えて任務をする日がやってくるなんて、思わなかったわ」
「同感だ」
「そのうち治まるさ。さ、行こうか」
「ちょっと待てよ、もう行くのか」
カカシの言葉を遮ってサスケが言った。
「何だ?何かマズイことでもあるのか?」
カカシが首を傾げた。
「あるだろ。まだあいつが・・・」
 
 
 
サスケは自分で言葉を出しておいてハッと思考を止めた。
 
 
 
 
「あいつ」って誰だ?
 
 
 
 
 
 
「サスケ君、誰か来るの?」
「元々7班はお前とサクラだけだろ?他に誰かいたか?」
「・・・いや、いない」
「涙のせいでおかしくなったのか?じゃあ行くぞ」
カカシとサクラが歩き出し、その後ろをついて行くサスケ。
サクラやサスケは元々、鼻は詰まっているし涙は流れるしで、話すことが億劫になっていた。
対するカカシもいつものように怪しげな本を取り出して歩きながら読んでいる。
誰も話さない静寂が気になった。
 
 
 
 
いつもこんなに静かだったか?
 
 
もっと賑やかじゃなかったか?
 
 
 
鬱陶しいくらい騒いでたじゃないか
 
 
 
 
 
 
 
誰が?
 
 
 
 
 
 
疑問は次々と頭の中に浮かぶのに、肝心なところで思考が止まる。
あともう少しで全てが分かる気がするのに、頭の中は霞がかっているようにはっきりしない。
サスケは余計な考えを振り払うかのように頭を振った。
 
 
いや、元々こんなもんだろ
 
俺もサクラもカカシも、騒ぐ方じゃない
 
 
 
 
 
 
 
 
全ては、気のせいだ
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
一瞬、チラリと頭の中を掠めた金色をサスケはすぐに奥へと押し込んだ。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
(完)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ここまで読んでいただきありがとうございました。
感想等をいただけると嬉しいです。
誰か続き書いて(笑)

 

 

 

 

 

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