「ナルト」
 
 
 
熱に浮かれた声で、俺の名を呼ぶな
 
 
 
 
 
 
 
 
ぼくの兄ちゃん
 
 
 
 
 
 
「お先に失礼しますってば」
ナルトはバッグを掴むと花屋の店主に挨拶した。
「ええ、また明日」
店主はニコリと微笑むとナルトに手を振った。
 
 
 
ナルトは今年で24歳になる。
大学は行かなかったため、社会人になって今年で6年目だ。
中学、高校と大して成績が良くなかったナルトだが、ずっと通っていた花屋の店主から「ここで働かない?」と誘われて即頷いた。
元々、園芸は好きで家でも家庭菜園をしていた。
今は訳あって一人暮らしをしているが、現在でもベランダに小さなプランターを置いて花や野菜を育てている。
 
 
ナルトは自転車に乗って、帰宅する前に近所のスーパーに向かう。
家は花屋から自転車で約15分走ったところにある。
駅から家まで歩いても20分くらいかかるし、コンビニも近くにないので家賃が安い。
しかし、家賃が安くても部屋はそこそこ綺麗だし、何より実家より居心地良かった。
 
 
 
 
ナルトは駐輪場に着くと自転車を置き、鍵を掛け、かごに入っているスーパーの袋を掴んだ。
節約のためほぼ毎日自炊だ。
今日の献立は豚の生姜焼きと大根サラダだ。
 
鼻歌でも歌いそうなほど上機嫌に玄関の前まで来ると、ナルトの体がギクリと止まった。
キッチンの窓はアパートの廊下に面して設置されている。
その窓から、部屋の明かりがついているのが見えた。
 
(誰だってば)
 
ナルトの家の鍵を持っているのは1人だけだ。
それはナルトの父である。
しかし今日は平日で、トラック運転手である父はまだ仕事中のはずだ。
 
(まさか)
 
自分の予想が外れることを祈りながらゆっくり鍵を回すと玄関には見知った靴が一足ある。
そして、ナルトが帰って来たことに気付いたのか、部屋の中にいた人物がこちらに近付いて来るのが分かる。
リビングの扉が開かれる。
そこに立っていたのは。
 
「おかえり、ナルト」
 
「・・・・サスケ」
 
 
 
ナルトの弟の、サスケだった。
 
 
 
 
サスケはナルトより6つ下で、今年で18歳になる。
ナルトと違い、頭も良く、名門大学に入学することが決まっている。
特待生扱いなので、入学金や学費は一切免除とのことらしい。
『父親思いのいい子だよね』
父が嬉しそうに電話越しで語っていたのを思い出した。
父は自分の給料が少ないことでナルトが進学出来なかったのをひどく後悔していた。
そんな父に気を遣ってもらいたくなくて、自分は一人でも生きていけるのだと知って欲しくて、ナルトは一人暮らしを始めた。
正確に言えば、それは理由の1つである。
一人暮らしを始めたもう1つの理由がどちらかというと割合が大きい。
というか、9割くらいがその理由のためだ。
 
「ずっと待ってたから腹減っちまったよ」
「・・・」
「早く飯食おうぜ」
 
このサスケが、ナルトを実家から遠ざけた最大の要因だ。
 
 
 
ナルトとサスケは血が繋がっていない。
 
ナルトの母は彼を生んでから体調を崩し、そのまま亡くなった。
その後、父は男手一つでナルトを育てていたが、ナルトが10歳の時に、再婚した。
その時、向こうの連れ子がサスケだった。当時4歳。
しかし、再婚した女性はその2年後、どこかで別の男を作って家を出て行ってしまった。
 
実の息子を捨てて。
 
そんなことが起こり、父は子供2人の面倒を見ることになってしまった。
女に酷い裏切りをされても、父はサスケを邪険に扱うことはなかった。
ナルトと同様にサスケを大切に育てた。
ナルトも、そんな父が大好きだし、ひょんなことで出来た弟もとても可愛がった。
3人は仲良く暮らしていた。
 
 
あの出来事が、起こるまでは。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
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