ナルト

 

どうしたの?じいちゃん

 

すまない、ナルト

 

何でじいちゃんが謝るの?

 

 

自分の本当の力を見せてはならん

 

 

 

お前は己を偽って生きていかないとならない

 

 

 

 

 

   子守唄1

 

 

 

 

ナルトは目を開けた。

(またあの時の夢だってば)

幼い頃に今は亡き3代目が、ナルトの小さい体を強く抱きしめながら囁いた言葉。

 

己を偽って生きていけ

 

小さい頃は言葉の本当の意味を理解することが出来なかった。

しかし、成長して自分が里でどのような位置付けをされているのかが分かると、その言葉の真意も理解した。

 

九尾の狐を体に宿している。

 

その事実だけでも里人はナルトを恐れた。

さらにナルトの本当の実力を知れば、きっと里を追放されるだろう。

あるいは処刑。

ナルトの実力は既に上忍レベルを超えていた。

新たな技もいくつか開発している。

しかし、その事を知っているのは現火影の綱手のみである。

3代目はナルトを守る為にあの言葉を言ったのだ。

 

 

「いー天気だってば」

ナルトはうーん、と思いっきり手足を伸ばした。

今はDランク任務の最中で、ちょうど昼休憩。

ナルトはカカシ、サクラ、サスケと離れて1人で眠っていた。

「そろそろ時間かな」

ナルトは下忍とは考えられない程の身の軽さで3人のいる方へと向かった。

 

 

「あ、ナルトいた!」

最初にナルトを見つけたのはサクラだった。

「ビックリしたのよ?急にいなくなるから」

「へへっ、ちょっと茂みで用足しを…」

「レディーに向かってそんな事いちいち報告しなくていいのよ!」

「いてっ!サクラちゃん、何も殴らなくたって…」

「ふん、さっさとこんな下らない任務終わらせるぞ」

「お前が仕切んなってば!」

「はいはい、ケンカは止めてねー。じゃあ午後も引き続き草むしりするから。

ナルトとサスケは向こう一帯で、俺とサクラがここ一帯ね」

「よっしゃー!午後もバリバリやるってばよ」

「足手まといになるなよ」

「それは俺のセリフだってば!」

「お前らほんと元気ね〜。とりあえず目標は日が暮れる前に終わらせること。では散」

 

ナルトは幸せだった。

ただの草むしりも、仲間との言い争いも、全てがかけがえの無いものだった。

 

「いてっ」

指に鋭い痛みが走る。

「あー切っちゃったってば」

草で見えなかったが、割れたガラスの破片で指を切ってしまった。

深く切れているようでダラダラと血が流れる。

(ま、ほっとけばそのうち治るだろ)

ナルトは九尾の影響で怪我をしてもすぐに治ってしまう。

したがって、怪我に関しては疎かった。

ふと、ナルトは自分に向かう視線に気付いてそちらを見た。

サスケが眉間に皺を寄せて立っている。

「怪我したのか?」

「あ、うん」

「見せてみろ」

サスケが強引にナルトの腕を引っ張る。

「結構深いな」

「こんなもんほっとけば治るってば」

「菌が入って破傷風にでもなったらどうするんだ」

サスケはポーチから水筒を取り出すとナルトの傷口に掛けて、丁寧に拭いた後、消毒液をつけた。

「しみるか?」

「や、全然」

最後にサスケは絆創膏を貼った。

ナルトはじっと指先の絆創膏を見つめた。

「サスケ、ありがと」

「ふん」

サスケの耳がほんのり赤く染まっている。

ナルトは嬉しそうに笑った。

 

2人だけになるとサスケはやけに優しくなる。

最初は戸惑った。一体何を企んでいるのだろうと。

しかし、いつしかそれが自然になった。

やがて、2人の間には仲間とは違う絆が生まれた。

兄弟のような、くすぐったい感じ。

初めて感じる繋がりだった。

 

 

「よっしゃー!終わった!」

ナルトは両手を振り上げて達成感に浸った。

爪の中は土が入って薄汚れている。それすら勲章のようで嬉しかった。

「あ〜ん、せっかく爪を頑張ってお手入れしたのに。サスケく〜ん、こんなに土が入っちゃった」

「洗っておけばいいだろ」

「サスケ君、相変わらず冷たい…」

サクラは落ち込んでガックリ肩を落とした。

ナルトはその2人の様子をじっと見ていた。

 

もし、もしナルトがサクラの立場だったらサスケはあんな冷たい言い方をしないような気がする。

 

そう思うのは自身の傲慢だろうか。

 

「じゃあ俺は今から任務の報告に行ってくるから、今日はここで解散ね」

カカシは言い終わる前に煙と共に姿を消した。

「ナルト」

サスケが声を掛けた。

「この後、何かあるか?」

「へ?特にないけど」

「じゃあ修行に付き合え」

ナルトは驚いて目を見開いた。

あのサスケが修行に誘うなんて。

「組み手の修行したいんだが1人だと出来ないだろ」

サスケは慌てて付け足したように早口で言った。

「もちろんいいってば」

ナルトは笑いながら快諾した。

 

その後、「私も行く!」とサクラも名乗りを挙げて珍しく3人で修行することになった。

 

森の演習場で3人は木登りで身につけた修行を応用して鬼ごっこをすることにした。

ただし、腰に巻いた布を奪い合うので、鬼は自分以外の全員である。

木から降りてはいけない。

忍具は使用禁止。ただし忍術は使用しても良い。

 

「よーいドン!」

ナルトの声と共に3人は一気に木に登る。

ナルトはこの中では一番チャクラコントロールが苦手、ということになっている。

サスケやサクラのレベルからナルトは自分のレベルを設定する。

(サクラちゃんは相変わらず上手いってば。サスケも成長してんだな。じゃあ俺はこれくらいかな)

 

木を登れないことはないが、継続し続けるのはまだ難しい、ということにした。

 

サスケはナルトに向かって来た。

足の裏にチャクラを集中している分、スピードはいつもより速い。

だが、ナルトなら難なくかわせるが、"このナルト"はかわせない。

「うわっ!」

寸でのところでサスケに布を奪われるのを回避する。

サクラも負けじとナルトの布に手を伸ばす。

「あぶねっ」

「守ってばっかじゃダメよ!」

2人から距離を置いてナルトは息を抜いた。

「うーん、どっちに行こうかな」

ナルトが思案していた時。

一瞬、1本の針のような殺気を感じた。

普通の忍であれば見逃してしまう殺気もナルトは見逃さなかった。

(どこだ?)

ナルトは相手に気付かれないように相手の位置を探る。

人数は4人。全員上忍レベルだ。

(相手の狙いは何だ?)

その時、敵の殺気が一点に集中する。

「サスケっ!」

ナルトは足の裏にチャクラを集めて一気に駆けた。

サスケを思い切り突き飛ばすとクナイや手裏剣がサスケがいた位置に飛んできて、サスケの代わりにナルトに刺さった。

本当のナルトなら避けることが出来た。

しかし、ナルトは避けなかった。

急所に刺さらないように僅かにズレながらクナイを刺し、木に張り付いた。

「ナルトっ!」

サスケが名を呼ぶ。

ナルトはサスケの無事を知りホッとすると、クナイが飛んで来た方を睨んだ。

「チッ、邪魔が入ったな」

木々の間から姿を現したのは他国の忍だった。

「うちはの生き残り。用があるのはお前だけだ。お前が素直に俺たちに従うなら仲間2人には危害を加えない」

「サスケ!あんな奴らの言うこと信じんなってば!」

「てめーに言われなくても分かってる」

「そうよ!きっとあなたたちの気配に気付いてすぐに誰かが駆け付けてくるわ」

サクラの言葉に敵の1人がニヤリと笑った。

「忠告ありがたいが、既にこの周辺を囲うように結界を張った。中の人間は当然だが、気配すら外に出さない」

「そんな…」

サクラは青ざめて辺りを見回した。

確かに目を凝らせばうっすらと結界の壁が見える。

ナルトはギリ…と歯を食いしばった。

ナルトは結界を張る瞬間に気付いていた。

サスケにクナイが向かった瞬間発動したのだ。

気付いていたが、"下忍ナルト"では何も出来ない。

 

「サクラ、お前はナルトに刺さったクナイを外せ。その間、俺が時間を稼ぐ」

サスケは気付いていた。

相手の忍が自分たちの力ではかなう相手ではないと。

だから「時間稼ぎ」という言葉を使った。

「サスケ止めろ!お前が勝てる相手じゃねーってば!」

ナルトが叫ぶ。

「黙ってろ!やってみないと分からないだろ!」

サスケはクナイや手裏剣を相手に投げて相手に向かって走り出した。

「くだらん」

敵はその攻撃をあっさり避けて、向かって来るサスケにクナイを投げつけた。

サスケにクナイが刺さる。

しかし次の瞬間、サスケは丸太に変わり、クナイの刺さった丸太がドサッと地面に落ちた。

敵の背後に現れたサスケが火遁を放つ。

4人は散り散りになってその攻撃を避けた。

サスケの両目は写輪眼になっている。

「あれば噂に聞く血継限界の写輪眼か」

感嘆の声で敵が呟いた。

「あれを出されたら面倒だ。あの目を封じるんだ」

「はっ」

1人の男が仲間に命じるとその男は瞬身の術を使い、サスケの後ろにわざと気配を発して立った。

その気配を感じ取り反射的にサスケは後ろを振り向いた。

その時、男は口から何か黒い物体を吐き出してサスケに掛けた。

それはサスケの両目を覆うように付着した。

手で擦っても引っ張っても取れない。

(くそっ!これじゃあ何も見えねぇっ)

サスケは敵の気配がない方向に移った。

「サスケ!そっちはダメだ!」

ナルトの声が聞こえると同時に腹に強い衝撃を受けて後方に飛ばされた。

木に当たってサスケは地面へと落ちた。

(くそっ、気配を消していたのか。俺としたことが…!)

どうやら腹を敵に思い切り蹴られたか殴られたようだ。

肋骨が何本か折れて、激痛で動けない。

 

「ターゲット捕獲。任務完了だ」

サスケの周りを4人が取り囲む。

忌々しそうにサスケは舌打ちをした。

「あとは、あの2人を片付けるぞ。火影にチクられたら面倒だ」

「ナルト!サクラ!逃げろ!」

「無駄だ。何人もこの結界からは出られない」

ニヤリと笑った男に見据えられてサクラは足がガクガクと震え始めた。

しかし、グッと口を締めるとクナイを持って構えた。

「サクラちゃん!止めるっば!」

「このまま大人しく殺されろって言うの!?冗談じゃないわっ」

「威勢がいいな。なぁ、俺にやらせてくれ」

サスケに向かって黒い物体を吐きかけた男がいやらしく舌なめずりしながらリーダーらしき男に目配せした。

「お前の悪い癖だ…。さっさと済ませろよ」

「1分もありゃあ十分さ」

敵のリーダーらしき男が軽いため息と共に言った。

男は二ヤァと気持ち悪い笑みを浮かべる。

 

ナルトは焦っていた。

 (どうすればいい?こんな奴ら殺すのは簡単だ。でも…)

三代目の言葉が思い出される。

 

 

本当の自分を出してはいかん

 

じいちゃんっ

 

もし出せば、わしはお前を

 

俺…!!

 

 

消さなくてはいけない

 

 

ナルトはギュッと目を瞑った。

 

みんなと会えなくなるのは嫌だ

 

 

 

 

 

 

 

でも、仲間が殺されるのはもっと嫌だ!

 

 

 

 

 

 

ナルトは目を開けた。

 

 

そこにいるのは皆の知るナルトではなかった。

 

 

 

 

 

inserted by FC2 system