幸せだった時間は自分の手で壊してしまう

 

 

 

 

 

  子守唄2

 

 

 

 

「はははっ」

男は笑いながらサクラへと向かって行く。

サクラが構える。

 

一瞬だった。

 

男が口から黒い物体を吐き出した。

サクラは気付くのが遅れて避けれない。

思わず目を瞑る。

だが、当たったと思った攻撃の衝撃はいつまで経ってもやってこなかった。

その代わり、誰かに体を抱きかかえられていることに気付いた。

そろりと目を開けて見上げると、ナルトがいた。

「ナルト?」

「怪我はない?」

サクラを下ろしながらナルトは聞く。

サクラは目を見開いたままコクリと頷いた。

「良かった」

ナルトはニコリと笑った。

サクラは違和感を感じた。

ナルトは先程までクナイが刺さって動けなかったはず。

サクラはナルトが刺さっていた木を見た。

そこには大量のクナイとそれに刺されたナルトのいつものパーカーしかなかった。

そのため、今目の前にいるナルトはパーカーを着ておらず、黒のシャツ1枚しか着ていない。

シャツの中から覗くナルトの肌には赤黒い怪我が見え隠れしたが、ナルトからは痛がる素振りは感じられなかった。

 

ナルトはサクラを敵から庇うように背中に隠した。

敵のリーダーはナルトの実力を見抜いた。

(こいつ、カブっていやがったな)

 

「サクラちゃん、結界に向かって走るんだ」

「え?」

「結界を出たら、助けを呼んできて欲しい。それまでこいつらを俺が足止めしてるってば」

「あんた何バカなこと言ってるの!結界は出られないってあいつら言ってたじゃないっ。それにあんたの力じゃ足止めなんて無理よ」

 

「大丈夫」

 

それはサクラの知るナルトの声ではなかった。

 

いつもと同じ声のはずなのに、何かが違う。

 

先程感じた違和感が強くなる。

 

「ねぇナル・・・」

「行くんだ、サクラちゃん。サスケのことは俺に任せて」

「でも…」

「いいから行けってば!」

 

ナルトの強い声にサクラは反射的に結界に向かって走り出した。

 

「無駄だ!」

男が笑った。

だがサクラは走るのを止めなかった。

その時。

ヒュッとサクラの後ろから風が吹いた。

そして、その風が結界に触れるとそこだけ結界が解かれた。

「結界が…!!」

サクラは驚いたが後ろには敵がまだいる為、無我夢中で走り抜けた。

「チッ、待ちやがれ!」

舌の長い男がサクラを追おうとするが、眼前に立ちはだかったナルトによって出来なかった。

 

「通さねぇってば」

 

(こいつ、さっき向こう側にいたはず…)

男は先程までナルトがいた場所をチラリと見た。

ここからあの位置まで移動するのに気付かれずにするなんて有り得ない。

ましてや下忍が。

「まぁいい。貴様を殺ってから追えばいいことだ」

再び男はニヤリと薄気味悪く笑った。

所詮は下忍。

どんな忍術を持っていたとしても全体的な能力はこちらの方が上だ。

 

男はナルトの実力を見誤った。

 

「それは、無理だってば」

 

俯いているために男からナルトの表情は見えない。

「何故なら、お前は今ここで」

 

 

 

 

 

「死ぬからだ」

 

 

その声はとても冷ややかで、男は背中に寒気を感じた。

 

ナルトがサクラを逃がしたのには2つ理由がある。

1つめは、サクラにも言ったように助けを呼んできてもらうため。

いや、後片付けを頼むため、とでも言った方がいいだろうか。

そして、2つめの理由が、ナルトがサクラをこの場所から遠ざけた最も大きな理由。

 

これから見せる自分の姿を見られたくなかった。

 

たとえこれで別れようとも、本当の己を見られるのは憚られた。

 

サスケも敵に視界を奪われてナルトの姿を見ることは出来ない。

ナルトにとって好都合だった。

気配は探れるかもしれないが、気配を探られる前に、カタをつける。

 

 

容赦はしない

 

 

俺が今まで大切にしていたものを、お前らが奪ったのだから

 

 

ナルトは臨戦態勢に入った。

男はナルトから離れた。

(とにかく接近戦は避けた方がいいな。ある程度距離を離したところで、俺の毒を食らわしてやる)

男は印を組むと口から大量の黒い物体を吐き出した。

その物体はナルトの頭上で拡散し、ナルトを囲むように地上に降ってくる。

「殺った!」

男は拳を握りながら叫んだ。

辺りは、男の吐いた毒によって土が腐り、腐臭が漂う。

だが、そこにナルトの姿はなかった。

 

「あれ?」

 

男はそこで気付く。

 

視界がズレていないか?

 

俺はさっきまで木の枝の上にいたはず。

 

何故、地上へ落ちているのだろう。

 

体が動かない。

 

否、体がない。

 

落下しながら上を見ると先程までいた木の枝には首のない自身の体と、自身を見下ろす冷たい目をしたナルトがいる。

 

男の首はドシャッという音と共に地面へ落ちた。

残り3人の敵が目を見開く。

「毒が吐かれる前にその場から逃げればいいだけの話だってば」

ナルトは右手にチャクラを集中させる。

男たちはそこで初めてナルトの真の姿を見た。

 

殺される!!

 

忍ならではの直感だった。

ナルトが敵目掛けて何かを投げた。

だが、その手には何も握られていない。

しかし、次の瞬間、リーダー格の男の左胸に穴が開いた。

「な、に・・・?」

即死だった。

男が死ぬと同時に辺りを覆っていた結界が消えた。

あの結界はリーダー格の男が張っていたのだ。

術者が死ねば、術も消える。

「に、逃げろっ!」

残りの2人はサスケをその場に置いて慌てて逃げ出した。

その顔はどちらも真っ青で、汗が滲んでいる。

「じゃあ、逃げるのを手伝ってやるってば」

ナルトは右の手の平を相手に向けて、押し出した。

強烈な風が男たちの後ろからやってくる。

逃げられない。

男たちは風に押されるように、眼前の岩にぶつかった。

2人は地面に落ち、二度と動かなかった。

 

一瞬だった。

 

サスケは現状を理解出来なかった。

だが、ナルトの普段とは違う声音や男たちの気配が消えたことだけは分かった。

 

誰かが側へ降り立つ。

「大丈夫か?」

ナルトの声だった。

「ちょっと待ってろってば。こいつは封印の一種だな。今解いてやるってば」

そう言ってナルトは印を結ぶと「解」と言い、サスケの目を覆う黒い物体に触れた。

パァンという音とともに物体ははじけて、サスケの視界が広がった。

最初に目に入ったのは安堵と悲哀が混ざったナルトの表情だった。

 

「怪我させちまってすまねぇってば」

「ナルト?」

 

目の前にいるこの男は誰なのだろうか?

 

ナルトの姿をし、気配もまさに彼そのものだが、何かが違う。

ナルトはそんなサスケの戸惑いに気付いたのか苦しげに笑った。

 

「ずっと、お前の傍にいたかったけど、無理っぽいってば」

 

ナルトから目が離せない。

何か言いたいのに、言葉は上手く出てこない。

 

 

あいつらはお前が殺ったのか?

 

 

お前は万年ドベのナルトなのか?

 

 

ずっとお前は俺たちを・・・

 

 

 

 

「ごめんな」

 

ナルトはサスケに抱きついた。

顔は見えないが、肩が震えている。

 

 

「泣いてるのか?」

ようやく出た言葉は、ナルトを気遣う言葉だった。

サスケは、その小さい背中に腕を回した。

細い肩。

細い腕。

こんなにこいつは小さかったのか。

サスケはナルトに言葉では表せない感情を持った。

ただ、この体を離したくないと思った。

 

 

 

サスケ 最後に、お前に触れられて良かった

 

 

 

今まで、ありがとう

 

 

 

 

 

 

「じゃあな」

 

 

ナルトは静かに言った。

サスケが口を開く前に、ナルトが歌を歌い始めた。

 

 

 

日に別れ

 

 

 

月が表れ

 

 

今夜はここまで

 

 

安らかな眠りに

 

 

 

 

ナルトの声なのに、その声はどこか甘く、どこか切ない。

この歌は体の中にいる九尾が教えてくれた。

九尾は時々、遠い故郷を思い出し、我が子を思ってこの子守唄を歌う。

その歌はひどく心地よく、聴く者全てを眠りへといざなった。

ナルトは幼い頃から九尾の歌うこの歌で慰められた。

サスケの力が抜ける。

チラリと顔を見ると、普段の険しい顔ではなく幼い顔で寝入っている。

「お前って、意外と幼い顔してんだね」

クスリと笑いながら、背中に回されていたサスケの腕を解き、そっと地面へと横たえる。

ナルトは両手にチャクラを集中させてサスケの腹へ手を置く。

肋骨は折れていた。

最後に名残り惜しそうにサスケの頬に手を当てる。

 

この温もりを、忘れないように

 

ナルトは一瞬のうちにその場から姿を消した。

その後すぐに、ナルトとサスケの名を呼ぶサクラの声が遠くから聞こえてきた。

 

サスケの右目からツ、と涙が頬を流れた。

 

 

 

 

 

 

 

戦闘シーンってほんっと書くの難しい

ナルトの使った術について十分に説明できないのが情けない

 

 

 

 

 

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