子守唄3

 

 

 

 

 

ナルトが夜道を歩いていると、見知った気配を感じた。
 
「・・・カカシ先生」
 
暗闇から、壁に凭れて腕を組み、こちらをじっと見るカカシの姿が見えた。
「何で、俺がここ通るって分かったの?」
「ここは、お前とサスケがよく一緒に修行してた演習場の前だろ?何となく、ね」
「そか」
ナルトは俯きながら照れくさそうに笑った。
「お前にあんな力があったなんて、知らなかったよ」
「今までずっと隠してきたから。でも、もう隠す必要はないってば」
その声は決意の声だった。しかし、どこか悲しげで。
 
「なぁ先生。とらわれちゃダメだってば」
「とらわれる?」
「うん。とらわれると、大事なものも見えなくなる。だから」
 
ボンッという音と共にナルトのいた場所に煙が立つ。
 
 
 
 
「いくらカカシ先生でも、俺は俺の道を行く」
 
 
 
カカシの背後にナルトが立っている。
 
 
「影分身か・・・」
「だから言ったじゃん。とらわれちゃダメだって」
 
カカシの背中に冷や汗が流れる。
 
 
今まで認識していたナルトとはまるで違う。
生まれてからずっと隠し続けてきたその気配に、微塵も気付かなかった。
それは、カカシとナルトのレベルの違いを示す。
 
 
首に衝撃を感じると同時に、カカシは意識を失った。
「このままじゃ風邪引くってばね」
ナルトは印を組むと2人の影分身を出した。
「カカシ先生を頼むってば」
「おっす」
2人は足と腕を持ってカカシを持ち上げて彼の家へと向かった。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
火影邸。
 
「来たようだね。入んな」
「失礼しますってば」
 
綱手はいつものように椅子に座って机に頬杖を付き、入ってくる人物を見つめた。
 
「3代目のジジィの引継ぎ資料で知ってはいたが、まさかこんなに雰囲気が変わるとはね」
「俺の仮面は伊達じゃないってばよ」
ニシシ、といたずらっ子に笑う様はいつものナルトなのに、全体から醸し出される雰囲気は明らかに違っていた。
「じいちゃんは言っていた。俺が本当の力を人前で見せたとき、俺の存在はなくなるって」
「いいのか?」
「あの時、決めたから。覚悟したからいいんだってば」
「そうか」
 
綱手はそれ以上何も言わなかった。
ナルトの瞳を見れば、何を言っても無駄だと察したからだ。
 
 
「今夜限りで『うずまきナルト』は消える。これからは、暗部として闇の世界に生きろ」
「うん」
「皆の記憶の消し方はお前に任せる」
「もう種は蒔いた。きっと明け方には『俺』はいなくなる」
 
ナルトはここに来る前に、風に乗せて自身のチャクラを里中に流した。
そのチャクラに触れると、ナルトに関する記憶は一切消去される。
そのチャクラは国外には飛ばせないものの、人の体に付着し、その人物が国外に出る度に、チャクラは広がる。
 
じきに、世界からも『ナルト』はいなくなる。
 
 
いるのは、名前を失ったこの個体のみ。
 
 
 
「ほら、これからのお前の仕事着だ」
綱手はナルトに服を放った。
全身黒ずくめの服と、狐の仮面。
「狐憑きに狐の仮面なんてシャレてるってばね」
「気に食わんなら狸にでもしてやろうか」
「やだ!かっこわりーじゃん」
そうやって駄々をこねる姿は子供っぽいのに、どうしてこの子はこんな雰囲気になってしまったのだろう。
「ナルト」
「ん?」
「里を恨んでいるか?」
 
 
「お前を暗闇へと押し込んだ私や、里が憎いかい?」
 
綱手はナルトの実力を感じ取り、勝てないと思った。
殺されても仕方の無いことを里は今までナルトに押し付けてきた。
里を壊滅されても、文句は言えない。
 
 
 
「恨んでないってば」
 
ナルトは歯を見せてニッと笑った。
「俺はこの里が大切だ。この里に生きるみんなが好きだ。だから、例え火影になって守れなくても陰から守ってみせる」
綱手は目を見開いた。
そしてすぐに顔を伏せた。
「すまない・・・っ」
 
 
 
 
 
 
ミナト
 
 
 
 
 
じじぃ
 
 
 
 
こんな子にこそ、火影は相応しいのにな
 
 
 
 
 
 
 
 
 
「ありがとう、ばあちゃん」
 
ナルトの感謝の言葉が、綱手にはあまりにも辛かった。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
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